宇宙が手のひらサイズだったとき

QUESTION & ANSWER

Q: 私たちの宇宙はとても小さな状態から始まり今もなお膨張し続けています。
宇宙がこの付箋紙と同じ大きさだったのは、宇宙の始まりからどれくらい後のことでしょうか?

A: 0.00000000000000000000
00000000000000001秒後
(10のマイナス37乗秒後)

イメージイラスト

解説

私たちの宇宙は、大爆発によって非常に小さな体積の状態として生まれたと考えられています。そして今現在も、宇宙は膨張し続けていることが観測的に確かめられています。

すなわち、過去に時間をさかのぼると、宇宙のサイズは今よりも小さかったということになります。十分時間を巻き戻せば、宇宙といえども付箋紙と同じくらい小さい時代があったかもしれません。そんな手のひらサイズの宇宙が実現していたのは、一体どれくらいの時刻のことだと思いますか。

まず、「宇宙の時刻」とは何を基準に定めれば良いでしょうか。ここでは、宇宙始まりに起こった大爆発の瞬間をスタートとして、そこから時を刻んでいくことにします。この時刻は「宇宙年齢」と呼ばれています。なぜなら、この方法で定めた時刻は、その時点の宇宙の年齢に一致しているからです。

次に、「宇宙の大きさ」とはどうやって決めれば良いでしょうか。こちらに関してはいろいろな考え方がありますが、今回は「私たちが現在、観測を行って知ることができる宇宙の領域の、各時刻における大きさ」のことを、宇宙の大きさと呼ぶことにしましょう。現在、私たちは光を使った観測によって宇宙の様子を知ることができます。光の速度:$c=30000000000\ \text{cm/s}$を超えて情報が伝わったり、光の速度を超えて物が運動することはできません。そして、光の速度は非常に大きいけれど有限です。このため、私たちが観測することのできる宇宙空間の最大の範囲というのは、ある有限の大きさに限られていることになります。この意味で、今回考える宇宙の大きさは有限です。

これで準備が整いました。具体的に、宇宙の大きさが付箋紙サイズだった時刻を求めてみましょう。この問いに答えるためには、宇宙の時刻と大きさを結びつける必要があります。この役割を担うのがアインシュタイン方程式です。この方程式は、宇宙の大きさが時刻とともにどのように変化していくかを記述してくれます。話を簡単にするために、宇宙が生まれてから現在までずっと、宇宙のエネルギーのほぼ全てを光のエネルギーが占めていたことにしましょう。この場合、アインシュタイン方程式から、宇宙年齢:$t$は、宇宙の大きさ:$r$は二乗に比例して増えていくという以下の関係が得られます。

$$ t \propto r^2 \cdots\cdots (1)$$
この式がまさに、「宇宙の大きさは時を経るごとにどんどん大きく広がっていく」という関係を表しています。
一方、「現在の宇宙の大きさ」$\approx$「宇宙が生まれてから今までに光が進んだ距離」という関係に気づくと、現在の宇宙年齢:$t_0$は、現在の宇宙のサイズ:$r_0$を光の速度$c$で割ったものに相当することがわかります。

$$ t_0 \approx \dfrac{r_0}{c} \cdots\cdots (2)$$
これらの関係を使うと、宇宙が付箋紙のサイズ:$r_i$だった時の宇宙年齢:$t_i$が以下のように求められます。まず、(1)の比例関係を使うと、

$$ t_i = t_0 \times \left(\dfrac{r_i}{r_0}\right)^2 $$
が得られます。さらに(2)の関係から$t_0$を消去すると、

$$ t_i \approx \left(\dfrac{r_0}{c}\right) \times \left(\dfrac{r_i}{r_0}\right)^2 = \dfrac{r_i^2}{cr_0} $$
と求まります。この式に、
・現在の観測可能な宇宙の直径:$r_0 = 10^{29}\ \text{cm}$
・付箋の直径:$r_i = 10\ \text{cm}$
・光速:$c = 30000000000\ \text{cm/s}$

の値を代入すると、$t_i \approx 10^{-37}$秒という時刻が求まります。私たちの宇宙が手のひらサイズだったのは、まさに宇宙が生まれてすぐあと、灼熱の火の玉の時代だったと言えるでしょう。こうやって具体的に計算してみると、宇宙という存在が少しだけ身近に感じられてきませんか?

さて、最後にいくつか注意点があります。上の計算では、「宇宙始まりの大爆発を起点とした時刻」を宇宙年齢と呼んでいました。それより前に何が起きていたのかについては、本当の所はまだ誰も知りません。また、ここでは宇宙の大きさを「現在において観測可能な宇宙の領域」としていました。この観測できる領域の外側については、私たちには少なくとも今の所、知る術を持ち合わせていません。しかし、そのような観測できない部分も含めれば宇宙はもっと(ひょっとすると無限に)大きいかもしれません。

そういう意味では、先ほどせっかく導き出した答えは合っているかもしれないし、合っていないかもしれません。問題設定が、そもそも間違っている可能性もあります。この問題の答え合わせの作業は、宇宙の起源解明に挑む物理学者たちに託されているといえます。これからもずっと、宇宙に関する知識は最先端の研究によって更新され続けていくことでしょう。

KMI 特任助教
小林 洸
KMI Science Communication Team
綿井 稜太
宇宙の歴史
参考:「宇宙の歴史ものさし」 KMI Unfolded (素粒子宇宙起源研究所が発行する出版物)Issue1より

こちらは「KMI Unfolded」に掲載されている「宇宙の歴史ものさし」です。宇宙の始まりから伸びる4つの矢印には、いろんな基準を使って宇宙の歴史に目盛りがふられています。それぞれ上から順に

(1)宇宙のエネルギー
(2)宇宙の温度
(3)当時の宇宙と現在の宇宙の大きさの比率
(4)宇宙が始まってからの時刻(宇宙年齢)

の目盛りを表しています。一番右側の目盛りが、現在の宇宙に相当する目盛りです。画像をクリックすると、拡大してご覧いただけます。

実は、今回計算で求めた10のマイナス37乗秒という数字は、この宇宙の歴史ものさしを使えば簡単に読み出すことができます。使うのは(3)と(4)の目盛りです。まず、上の計算で使った値を使い、現在の宇宙の大きさと付箋紙の大きさの比率を計算してください。次に、対応する目盛りを(3)のものさしの中から探します。最後に、そのときの宇宙の時刻を(4)のものさしから読み出すと...?